アレクサンドル・ヴィノグラードフのヴォイストレーナーである、スヴェトラーナ・ネステレンコさんがCOVID-19に罹患。
残念ながら11月2日、 モスクワで亡くなられたとのことです。73歳でした。
Obituary: Russian Voice Teacher Svetlana Grigorievna Nesterenko Dies of Covid-19 – Opera Wire
Умерла одна из лучших преподавателей вокала России Светлана Нестеренко
スヴェトラーナさんはロシアでは「学生にも、プロの歌手にも教える」特殊なヴォイストレーナーとして、ロシアの声楽界では非常に有名な方です。
門下生にはヴィノグラードフのほか、昨年新国立劇場での「オネーギン」でタチアーナを歌ったエフゲニア・ムラーエヴァなど第一線で活躍中の歌手が数多くいます。
ヴィノグラードフは学生時代の19歳の時から現在に至るまで、ずっとお世話になってきました。
彼はロールデビューの時には必ず先生にチェックしてもらったり、アドバイスを頂いたりしていて、先生も彼に呼ばれたら必ず現地へ向かってましたし、彼のキャリアは先生との二人三脚で築いてきたものと言っても過言ではありません。
インタビューを受ければ必ず「僕にはとても良い歌の先生がいて・・」「彼女は格別な女性で、偉大な声の知恵を宝物とし、常に僕に莫大な知識をもたらしてくれます」など、いつでも先生を称えていました。
今回の悲しいニュースを知り、調べていたら2011年に先生が受けていたインタビューが見つかりました。
Светлана Нестеренко: “На сцене важен не только голос, но и актерская харизма”
その中で、星の数ほどいる先生の教え子の中の一人としてですが
「私が大好きな生徒の一人は、ベルリンに住んでいるアレクサンドル・ヴィノグラードフです。彼は既にベルリン、ミラノ、ロンドン、ロサンゼルスなどの大都市で成功を収めていますが、大事な役のロールデビューなどの時にはいつも私を招いてくれて、一緒に仕事をしています」
という形で、彼に触れていらっしゃいました。
…師と弟子、本当に強い絆で結ばれていたのだと、胸が塞がれる思いです。
私事ですが、一度だけ先生にお会いしたことがあります。2009年ベルリンで彼が初めてショスタコーヴィチの13番(バビ・ヤール)を歌った時に、やはり先生が来ていらっしゃったのです。
大柄でロシア人独特の迫力があり、最初は怖そうな人だな…と内心ビクビクしていたのですが、
彼の奥様が「ファンサイトを作ってる●●さんよ」と私を先生に紹介して下さると、
優しい笑顔に変わり、握手をして、英語はあまり得意ではなかった先生が奥様を介して
「YouTubeに上げてある彼のヴィデオクリップもあなたが作ったの?とても上手にできているわ」
と仰って下さったことは忘れられません。とても嬉しかった言葉です。
その時の別れ際に「お会いできて嬉しかったです。ありがとうございます」と伝えると
「またすぐに、どこかで会えるわね」と、もう一度握手して下さいました。
大きくて柔らかい、ロシア女性の温かい手でした。
結局あの一度だけが最初で最後の交流となってしまいました。
彼は来年1月に、バルセロナのリセウ劇場で「ホフマン物語」の悪魔4役のロールデビューを控えていますが、
こういう状況の中で、ロールデビューが無事に行くことを願いながら
おそらくその準備も一緒に進めていたことでしょう。聴きたかったことでしょう。
そして彼も、彼の家族も深い悲しみに包まれているのね…と思うと、辛いです。
久しぶりの彼にまつわるニュースを、こんな悲しい内容で綴らねばならないのも、辛い。
スヴェトラーナ先生、本当にありがとうございました。
謹んでお悔やみを申し上げます。