(この晩のコンサート、Webで聴くことができます。♪こちら♪をクリックして頂くと、ダイレクトにRTEの、その日のプログラムへ飛びます。2月24日までかな?
詳しい聴き方は⇒⇒⇒ ここで紹介している(アイルランド響のアーカイブ)では、向こう1年くらいは大丈夫だそうですが、音質が著しく落ちます(^_^;))
ちなみに私、感想を書き終わるまでは聴かないでおこう…と思って、ホントにアーカイブに入っているかどうかを確かめるだけに、サワリを聴いただけで、まだ聴き直してはいません^^; これでやっと、ゆっくり聴ける…けど、聴いたら感想が、変わるかもですね^^; ま、その時はまた、感想書いちゃおう~)
アイルランド国立コンサートホールは(多分)地元の人ばかりが集う、見た目には小さなホールで
(従って、カメラも持って行ったのですが、観光客が中の写真を取るような雰囲気ではなかったの^^;)
HPによると、席数は1200だそうです。
でも、実際に入ってみると、もっと席数が少なかったような気がしました。多分、前後左右の席の間隔が、すごく狭かったからだと思います。
クラシック以外にも、ジャズのコンサートなども行われるとのことです。
旅行の予約を実際に始めたあとで、このコンサートはWebラジオで生中継、さらに、RTEのアーカイブにも入るということが発覚。
しかし、放送があるとは夢にも思ってませんでしたから、張り切ってチケットは、前から6列目のど真ん中(でも30ユーロだった…ありがたいことです)を取りました。
譜面台とソリスト用の椅子が二つ(「モーツァルトとサリエリ」は、テノールとバスの、二人で構成される)あり、
そのうちの向かって右側の譜面台が、私の真正面。
その、私の真正面の譜面台を、バス=ヴィノグラードフが使うことに。
これは、絶妙の距離感…
これ以上近すぎると(普通に見ていると)足しか見えないような感じだし、音も頭の上を抜けて行くような感じになったと思うし、
あれ以上後ろに下がると、双眼鏡を使いたくなるような位置。
演奏が始まる前から、とりあえず物理的な距離感という点では、2009年のベルリンでの「バビ・ヤール」の時以上に、親密な感じがしました。
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この作品に関しては、ロシア物に大変お詳しい、お仲間のkasitankaさんが解説を作って下さっています。⇒⇒⇒
テノールとバスの二人芝居で、45分ほどの短い作品ですが、いきなり冒頭にサリエリ=バスの独唱(というか、独白)が7分ぐらい、真ん中に6分ほど、そして最後に2分ほど、もちろんその他の部分はモーツァルト=テノールとの絡みや、管弦楽の間奏曲が入ったり・・という構成ですが、バスの比率が3分の2ぐらいを占めると思います。
2~3時間のオペラ一曲でも、バスの出番のトータルは20分ぐらいとか(エスカミーリョとかね^^;)のものも多いですから、物理的な時間という意味でも、非常に美味しいのです。
彼をコンサート形式のオペラで聴くのは2度目ですが、シンガポールでの「エレクトラ」のオレストの時は、タキシードではなく、スーツで、簡単な演技もつけていたのですが、今回はタキシード。この後にモツレクも控えていましたから、それを鑑みてのことだったのでしょう。
まあ、譜面も置いてありましたから、動きをつけるとしても、手を動かす(^^;ぐらいだろうなぁと思っていたのです。
ところが、最初の独白の「入り」の部分こそ、静かに歌い始めたんですが、サリエリの苦悩に合わせて曲調が少しずつ激しさを増していくにつれ、彼の動きも激しくなり、シャツの襟とネクタイをぐいっとつかんで「ああ、苦しい!」と言わんばかりに緩める始末。
あれが演技だったのか、ホントに苦しくて緩めたのか、どっちだったのか定かではないのですが、この晩の彼は、何かに取りつかれたような、いい意味での「役への没入感」が感じられました。
ステージも決して広くないのですが、右半分の空きスペースを行ったり来たりと、動く動く。
席がキチキチな分、ステージと観客席の絶妙な一体感。特に私の席位置は「見る」という点でも、ドンピシャ。
彼は、普通のオケ物コンサートでは(というか、本式のオペラでも)あんまり動かない人だけど、この時は、まるでマドリードで見た(聴いた、同じく演奏会形式の「ドン・キショット」)の時のフェルッチョ・フルラネットのように「動いて」いました。これには本当に私もびっくり。
コンサート形式とは言え、オペラを歌う、という原点に戻ると、身体の方が自然に動いてしまうオペラ歌手なんだよなぁ・・・って思いました。
その直後のモツレクでは、大人しくなってましたからね^^;
椅子に座っても、常にイライラしてる感を醸し出していて、老楽師の「ぶってよ、マゼット」のワンフレーズのバイオリンの奇妙な音(美人のわか~い女性バイオリニストが、上手に弾きました^^)の時の、イヤそうな顔と言ったら!
コンサート形式なので、ソリストにはそれぞれ、コップとペットボトルの水が用意されていたのですが、
間奏曲の間に、タキシードのボタンをはずして、懐中から何か取り出し、モーツァルトの目を盗んで、ペットボトルにこそっと、粉のようなものを入れ・・
これが「毒を盛る」ってことね^^; と、お客さんもクスクス。
そして、飲み物を勧めるところでは、そのペットボトルからコップに水を注いで、モーツァルトに渡し…
渡した後の「しまった」感も、バッチリ。
でも私が、何よりも心を打たれたのは、最後の独白2分間の場面。
歌うと言うよりも、殆どセリフを語るようなフレーズですが、苦悩を絞り出すように歌い、最後は…
憔悴しきって椅子に座って、叱られた子供が「ごめんなさい」と言っているかのように、頭を抱えてつっぷして。
彼が、ホントに小さく小さく、見えました。そのまま、消えてなくなってしまうんではないかしら?とさえ、思いました。
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ロシアオペラのバスの大役と言えば、私も大好きなムソルグスキーの「ボリス・ゴドゥノフ」のタイトルロール。
この作品のもう一つ重要なバスの役・老僧ピーメンは、既にレパートリーに入れていて、彼の芸風と音域的にもよく合っています。
なので、いずれは彼がボリスも歌いたいと思っていることは当然承知しているのですけど、彼のボリスというのは、これまで、全くイメージが湧きませんでした。
でもこの晩、私は「彼がボリスを歌えば、こういう表現になるのかもしれない」と、初めて彼のボリスのイメージが湧いたのです。
それだけでも、あの晩、実際に聴いたことの意味は大きかったと思います。
楽譜も殆ど、なぞるだけ…ぐらいの使い方でした。綴られているタイプではなかったようで、一度、勢い余って(^^; 飛んでしまいそうになったのを、上手く押えてましたけど(^_^;)
真正面で声のシャワーを全身に浴びるという意味でも、私にとっては絶好の位置。声量もパワフルで、それでいて弱音のコントロールも、もちろんロシア語の歌い回しも完璧で、人の良さそうな、アイルランド人テノールPaul McNamaraを、全ての面で圧倒していたと思います。
この彼のパフォーマンスを、完璧にサポートしてくれたのは、指揮者のアラン・ブリバエフ(Alan Buribayev:1978年生)。
日本にも数回(震災後の昨年10月にも来日してます)来て下さっていると、彼のこともkasitankaさんから伺い、ネットで少し探ってみたところ、評判は上々。
ワールドワイドな知名度という意味では、ヴィノグラードフ(1976年生)がこれまでに共演した、彼と同世代の他の指揮者(スカラ座でのヤニック・ネゼ=セギャン(1975年生)や、LAフィルでのグスタフォ・ドゥダメル(1981年生まれ)等)には劣りますが、商業ベースからは少し距離をおいたところで地道に活躍なさっている点は、まさに私好みのスタンス。
実際に聴けるのを、非常に楽しみにしていました。
まだまだ荒削りなところもありましたが「こういう風にしたい」という音楽の方向性がはっきりと聴き取れ、正直に言って、決して上手とは言えないアイルランド響のオケが、彼の要求にこたえきれてないのが少し、もどかしかった。
それでも、ヴィノグラードフとのコンビネーション、ケミストリーはすっばらしく、彼が思い切ってのびのびと歌えたのは、ブリバエフのサポートあってのものだと断言できます。
もしかしたら、私が今までに聴いた中で、一番コンビネーションが良い指揮者かもしれません。
予習で聴いていたCDでは、どちらかというと本当に室内楽的な、淡々とした作品なのかしら?と思っていたんですが、二人の演奏スタイルには起伏があって、ドラマティックな作品に生まれ変わったような気さえ、しました。
このコンビで、是非「バビ・ヤール」と「死の歌と踊り」を聴きたい。
私は心から、そう思いました。
一気に私のテンションMax, 二人の共演でこの二つの演目を聴けたら…ああもう、その先の人生に何があっても、乗り越えられそう(笑)
こんな素晴らしい演奏会で、私が燃えないわけが、ないでしょ。
…ああ、無理して来て良かった。
放送を聴くだけだったら、こんなにも彼が激しくこの役に没入している姿は、見られなかったし、何よりも彼の歌心に火がついた熱唱を、全身で感じ取れなかったし、そんな彼を熱く見つめることもできませんでしたから。
本当に、至福の瞬間。決してクラシック音楽のレベルが高いとは言えないであろう、ダブリンでこのような体験が出来たのは、幸せです。
ナントカの神様って、やっぱりいるんだ~~諦めちゃダメ、って、
「これだ」と思った演奏会には、無理してでも行くべきだと思いました。
長くなったので、この晩のもう一つの演目「モーツァルト・レクイエム」は別立てします。
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RIMSKY-KORSAKOV Mozart and Salieri [43′]
(A concert performance sung in Russian)
Friday 27 January, 7.30pm
at the National Concert Hall
Paul McNamara tenor (Mozart)
Alexander Vinogradov bass (Salieri)
RTÉ Philharmonic Choir (chorus master Mark Hindley)
Alan Buribayev conductor