130528 ショスタコーヴィチ交響曲第13番【バビ・ヤール】@パリ・バスティーユ劇場

気がついたら4ヶ月も前の話になってしまい、今更感ありありな気もしますが…
【バビ・ヤール】は私と親しい方、古くからの私のブログの読者さんには周知のことだと思いますが、アレクサンドル・ヴィノグラードフのレパートリーの中で、私が最も愛する作品。

彼がこの作品を歌うのは、2009年10月に、バレンボイム×シュターツカペレ・ベルリンとの共演以来2度目。表現自体は少し固かったし、勢い余って先走ってしまったところもあったけど、
でも私は彼の声と作品に耽溺し「この作品と彼の付き合いは長くなるはず」と確信しました。

あれから4年。再び彼がこの作品を歌う…と知ったとき、作品をより深く理解したい、彼が歌うのを、もっと深く、じかに感じたい…との思いから、ロシア語の先生のご指導のもと・この長大な作品の全訳に挑みました。
最後はもう殆ど執念、やっつけ仕事のような状態でしたが。
・ショスタコーヴィチ交響曲13番:全5楽章日本語訳

さて、パリでのコンサートの2日前まで、トリノでの「オネーギン」にグレーミン侯爵役で出演していたヴィノグラードフ。トリノでの最終日には終演後速攻で、パリ行きのフライトを捕まえて、翌朝からの13番のリハーサルに備える…という、タイトスケジュールでした。

ちょうどこの写真のような感じでした。

ちょうどこの写真のような感じでした。

先にマーラー10番が演奏され、インターミッションの後で13番だったんですが、休憩から戻ってきくると、譜面台の上に載っていた楽譜の厚みにびっくり!!4センチ近く、まるで美術図鑑並みの厚さだわ〜〜と思いました。

席は前から3列目で、彼のちょうど対角線上…くらいの位置でした。

実は私、トリノの「オネーギン」の初日に大泣きしてしまい、
舞台上の彼の姿をまともに見ることができませんでした。翌日(=最終日)は大丈夫だったんですが、4年前にベルリンで聴いた時も壊れた蛇口のような状態でしたし、これでまた、パリで泣いてしまったら、いったい何をしに来たのかワカラン状態になりかねない…と、気が張ってました。

始まってみると、こっちが変な感傷に浸る隙もないような厳しい彼の顔つきと表現。特に第一楽章は、一番私の思い入れが深いのですが、そもそも聴いて泣くような内容の作品ではありません。
厳しく激しく、そして部分的にはほんのわずか、ロマンティックな旋律さえあるのですが。

これは昨年10月のオビエドでの「森の歌」の時。こういう感じでした。

これは昨年10月のオビエドでの「森の歌」の時。こういう感じでした。

4年前よりも確実に一回り大きくなった(=厚みが増した)胸をぐっと反らし、拳に力を込めて、時に苦渋の表情を浮かべながら、静かに、でも熱く前を見据えながら、
終止厳しい表現を展開する彼と一緒に(心の中で)口ずさみながら、これまでと全く違う意味で、私は目が離せなかった。

私はこれまで彼を、ずっと憧れを持った目で見つめ、目が離せなかったと思うんですが、
憧れを持って(下から)彼を見つめる、というよりは、彼と同じ位置に立って見据えているような感覚…とでも言うのかしら?

「(トリノでは泣いて目を逸らしてしまった私だけども)もう二度とお前から、目を逸らさない…」

4ヶ月経って思い返しても、やはりあの時の私は彼に対して「あなたを」ではなく「お前を」という呼び方で見て聴いていた…としか、言いようがないのです。

秀逸だったのが
Я каждый здесь расстрелянный ребенок. 僕はここで銃殺されてしまった赤子であると感じている。

この”ребенок” (赤ん坊、幼児)という言葉に、渾身の力を込めたところ…ああ、彼らしいな、と思いました。

皮肉たっぷりの第二楽章(本人にちゃんと確かめてはいないんですけど、多分ここが一番好きなんじゃないかと思っている)は、メフィストを歌う時には、こういう顔をしているんじゃないかな?という表情。歌の表現は、ここはもうホントに楽しそうで。

第三楽章が始まる前に、水を飲みたかったみたいでしたが席の近くに用意されておらず、結局そのまま最後まで通しましたけど、なんとかなって…たと思います。
ロシア女性を賛美するところの弱声はとりわけデリケートで、彼の気持ちが伝わってきました。

第四楽章はまさに「恐怖」ここは若干、疲れが出たかな? 少し一本調子で平坦になってました。
尤も「恐怖」を意味する”страх” がたたみかけるように連続するところは、訳していても酸欠状態になりそうな(恐らく)歌手泣かせの箇所だと思います。彼に限らず、録音で他の歌手さんが歌っているのを聴いても、どうしてもあそこは、歌いきるのがやっと…という感じに(特に若い歌手は)なりがちですが、
あそこでスタミナが落ちないように全体のペース配分を調整できるようになれば、もっと良くなると思います。

最後の第五楽章は、これまた2と同じく、奇妙奇天烈(笑)な内容ですけど、ここも多分、彼、すごく好きだと思うんですよね〜〜

【独唱】
Льва …? レフ(トルストイ)のことか?
【合唱】
Льва!  そうだ、レフのことだ!

この掛け合い(真面目くさった顔つきで、ですよ)「ん?!」という感じで、キョロキョロ何かを探しているみたいな身振りが、お客さんにも受けていました。

フィリップ・ジョルダン。個人的にはオペラよりも交響曲向きかな?と感じました。

フィリップ・ジョルダン。個人的にはオペラよりも交響曲向きかな?と感じました。

指揮はフィリップ・ジョルダン。実は私、ジョルダンとは残念ながらオペラでは相性が悪くて、今回も若干心配してました。
先のマーラー10番が思ったよりも良かったので、この分なら心配ないかな…と、安心できたのですが
やっぱり、例えば第一楽章の、暴力的とさえ言えるような、ナチ侵攻を連想させるところなどは、もう少し煽って欲しかったかな…とかいう思いはあります。
振り方は体全体を(多分、膝も柔らかいんでしょうね…)上下に大きく揺らしながらという格好で、ちょっと意外な気がしました。

でも旧ソ連系の指揮者張りに煽ればいいというものでもないですし、ある意味その容姿に違わず、現代的でスマートな13番だったかな、と思います。
ヴィノグラードフも歌い方は伝統的なロシアの歌いっぷりだと思いますが、やっぱり現代っ子ですから、時代の生き証人的な感じの表現ではないですし。

終演後は大喝采。
私の両隣はご婦人でしたけど、途中でプログラムの彼のところを何度もチェックなさってました。名前覚えてくれると嬉しいんですけどね。
ヴィノグラードフ、ジョルダン両氏共々、お互いに讃え合う姿を見て、ほっとしてちょっと、気が緩みました。嬉しかったですね、やっぱり。

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ところで事前に訳付けをしたことにより、初めて「ロシア語の詩の内容を(ある程度)自分で理解した状態で聴く」ことになったわけですが、
もしかしたら、私のちょっぴり上から目線的な感覚は
「身体で感じるよりも頭で考えて聴く」ことに振れてしまったことによって齎されたものだったかもしれません。

まあ、ささっと訳がそらんじれる・・・・とかいう状況にはまだまだ遠いんですが、意味もよくわからず、ひたすら耽溺していた4年前とは確実に違ったのは、その1点ですものね。
もっと詩の理解を深めて、皮膚感覚のような状態になった時にどう感じるのか? その頃にはヴィノグラードフの表現も歌唱も、もっと深くなっていることでしょう。
まだまだ奥深く興味は尽きない「バビ・ヤール」の世界です。

この日はラジオ中継放送もあり、ツィッターでいつもお世話になっている海外ネトラジクラシックさん、galahadさんがライブで聴いて下さっていました。あとで書き込みを読んで、私よりもうんとショスタコーヴィチに通じていらっしゃるお二人が大変褒めて下さっていたので、嬉しくなったんですけどね。特にこれ↓


お二人には改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。

さて残るは、放送録音の音源を使ったクリップ作り。一つのクリップの長さが10分以上…という音源にかつて絵をつけたことがないので、どうにも躊躇しているんですけど(笑)
リヴァプールでのコンサートがこの時期に入ってきましたから、先入観を与えない為にも、この後で作るのが良いのだ…と思うことにします:P

(2013.12第一楽章だけとりあえず完成♪)

(なんとか、リヴァプールでのコンサート開始までに感想書くのは間に合ったわ^^; 現代的ショスタコーヴィチの解釈者の第一人者でもあるヴァシリー・ペトレンコと一緒に頑張るのよっ)

・ショスタコーヴィチ交響曲13番:全5楽章日本語訳

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「ジュリオ・チェーザレ」のおまけのような扱いの劇場ポスター。ヒドイ(ToT)

2013.May 28 @ Paris-Bastille
PHILIPPE JORDAN
Gustav Mahler Symphonie n° 10 (Adagio)

Dimitri Chostakovitch Symphonie n° 13 en si bémol mineur Babi Yar, op. 113
Alessandro di Stefano Chef du Chœur

Alexander Vinogradov Basse

Orchestre de l’Opéra national de Paris
Chœur de l’Opéra national de Paris
Chœur Philharmonique de Prague

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