ロシア的って何?

ラフマニノフの《鐘》にちなんで、鐘がらみのお話です。

《鐘》とロシア人は、切っても切り離せない関係。
以前、《ロシアの鐘、ロシア的って何?》という内容の記事を書いたことがあるのですが、
その時の文章が、個人的にはなかなか気に入っているので(笑)
長いですけど、まとめて再掲しておきますね。

ちょうど「バビ・ヤール」を聴いてきた頃に書いたものなので、バビ・ヤール礼讃のような文章でもあるんですけど(^_^;)

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以前、とある場所で「ロシア的な音楽」とは?というお題が盛り上がった時に、書かせて頂いたことを引用します。

[red_box]「バレエには疎いですし、オペラもそんなに沢山知っているわけではないので、上手に言えないのですが
ロシアの作曲家、それぞれ好きだなあと思うのですが、グリンカやチャイコフスキーよりもムソルグスキーやラフマニノフ、ひいてはショスタコーヴィチの、骨太ヘビー級(笑)の方が、より私の好みに合うようだ…というのを、いろんな曲を聴くにつれて感じています。歌曲でさえも、その傾向があるみたいでして。
元々私は、ワーグナーとかR.シュトラウス等、編成の大きなドイツオペラからクラシック音楽に入っているせいか、耳に優しいタイプの音楽だと、どうにも食い足りない気がするので(もちろん、それが心地よく聴こえる時もあります)そのせいもあるのかもしれません。
魂が揺さぶられるとでも言いましょうか。ドイツ音楽よりも、もっと生々しい、プリミティブな部分に訴えてくるのが、この辺りのロシア音楽かなぁという気がしてます。」[/red_box]

一口に「ロシア音楽」と言っても、 大きく分けるとグリンカやチャイコフスキーなどの、ロマンティックな甘い郷愁を誘う調べが中心の作曲家と、ムソルグスキーやラフマニノフ、そしてショスタコーヴィチの、ダイナミックで構築の大掛かりな作風が中心の作曲家に二分されるかと思います。
ですが、どちらの作風も、聴いてみると「ああ、何というか《ロシア的》なのよね」と感じるのです。

[red_box]そもそも《ロシア的》って何?
非常に難しい命題ですが、私が無理やり定義付けするとすれば;

広大な大地、荒々しい自然から生まれた、原始的な人間の息遣い…人が生きて行く上で、決して綺麗ごとだけでは済まされない猥雑さや、ぐちゃぐちゃした混沌とした感情、そんな骨太で力強い泥臭さ、生命力と言うか、この世に生きとし生けるものすべての、生々しさの象徴のような気がします。
それはロシア音楽に限ったことではなく、ロシア絵画やロシア文学からも感じ取れるかと思います。
それだけに、よりプリミティブな部分…私の深いところに眠っている何かを覚醒させる為に身体の奥を掻き回されるような、本能に訴えかけてくるような気がするのです。[/red_box]

30歳過ぎてから、編成の大きなドイツオペラ(ワーグナー&シュトラウス)を通してクラシックを聴くようになった私ですが、原体験は、中学生の時に音楽の授業で聴いた、スメタナの「わが祖国」かもしれません。
民族調の強い調べは、非常に私の心を捉えました。クラシックを聴くような家庭環境ではありませんでしたので、その時レコードを買ったり…とかはしませんでしたけど。

スメタナはチェコの作曲家ですから、ロシア音楽と括ってしまうのはご法度でしょうけど、根底に感じられる、俗っぽい言い方をすると「東の土臭い香りがする」という点では共通していると思います。
地域性、民族性が強く感じられる旋律に、私は子供の頃から惹かれていたのでしょう。

だから、きっかけさえあれば、この手の音楽にのめり込む可能性は、潜在的に充分持っていたんでしょうね。

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ところでロシア音楽は元々、ロシア正教から発展した側面があり、またロシア各地で聴かれる「鐘の音」とは、深いつながりがある…というのを、ロシアに精通した方から教えて頂いたことがあります。

鐘つきという職業もあるとのことですし、各地の鐘の音を集めたCDも存在するとか。
教えて頂いた専門のサイトには、MP3で音を聴けるページもありますし、Youtubeでも色々視聴できます。
たとえば http://www.youtube.com/watch?v=VARkxF__SWw ← このページから、色んな「鐘の音」に、関連動画がらみで辿って行けます。
こちらは小型の鐘=鈴のサイト。見てるだけでもカワイイです(笑)

[green_box]この「鐘の音」にも、非常にロシア的な何かを感じるのではないでしょうか。私は日本のお寺の鐘の音も好きなのですが、それは視覚で例えるならば、静かな水面の上に、石を投げて出来上がるさざ波のような感じ。音としても「ゴーン」という一つだけですしね。
そこには、静寂で凛とした美しさがあります。

ロシアの鐘の音は、大小さまざまの鐘の音を絡ませ、もっと混沌としてます。確かにそれだけで、一つの音楽です。

外国人の私が聴いても、この混沌としたぐちゃぐちゃした感じが、本能に訴えてきて、大きな感情のうねりを引き起こす気がするのですから、街の中でこういう鐘の音が日常的に聴こえる中で育つロシア人の身体には、この音やリズムが、染みついているのではないかしら。[/green_box]

こういう鐘の音を、オペラのシーンで効果的に使っているのが、ムソルグスキーの「ボリス・ゴドゥノフ」の戴冠式の場面でしょう。

そしてショスタコーヴィチも、鐘の音を大変効果的に使った作品を残しています。その一つが、交響曲第13番「バビ・ヤール」。
第一楽章の冒頭部分に、いきなり重厚な鐘の音を合わせ、その後も随所に、印象的な鐘の音が聴こえてきます。
声楽パートは、陰々と続く男声バスのソロ、そして合いの手を打つように重なるバスの合唱…

と、ロシア音楽の重要なファクターを、一つの作品でこれだけ盛り込んだ作品も、他に例を見ないのではないでしょうか。

アレクサンドル・ヴィノグラードフは若いころから(学生の頃に出たコンクールや、デビュー当時の小さなコンサートなど)よくショスタコーヴィチの歌曲を取り上げていました。

そして彼の取り上げる声楽曲の歌詞は、風刺ものや皮肉の効いたもの、難解で深遠、硬派なものが非常に多いのです。これは、2009年3月のモスクワリサイタルで取り上げた曲目からも、察することが出来ます。

見た目が優男(+私の悪しきラブラブキャンペーン(笑))の為、ロマンティック路線の強い作品を得意にしているようなイメージを抱く方が多いかもしれませんが、実は彼の本領は、

こういった硬派で男性的な作品を、コントロールの効いたバスの声で、時にデモーニッシュに、時にストイック且つエレガントに表現することなの

と、私は思っているのです。

そもそも(ロシアものではないにしろ)出会った最初の「ザラストロ@魔笛」は、思い切り男性礼讃的な役柄ですが、男性的なバスの魅力というのは、決して雄々しく猛々しい歌唱だけではないのです。

そんなロシアンバスを愛で、鐘の音には何かを揺さぶられ、重厚なオケと合唱が大好きな私の「プリミティブな部分で求めている何か」を、これほど深く探究でき、堪能して味わえる作品は他にない…

ヴィノグラードフに興味を持ったことがきっかけで、ショスタコーヴィチの作品について調べ始めてから、13番の存在を知り、その頃からずっと
「これは《彼の音楽》。いつか彼が、この作品を歌うのを聴きたい」
と、願い続けていたのでした。

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ラフマニノフの《鐘》も、そんな《ロシアの鐘の音》の魅力を余すところなく表現していると思います。
(はい、バスの歌詞はすっごく深遠ですよん^^;)

放送、すっごく楽しみです!!!
お願いだから、あったかいところ ⇒ さむ~いところに行って、風邪引いた!なーんてことにならないように、気をつけてね

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