フィガロの結婚@新国立劇場 千秋楽のレポを上げる前に

3回目の時に「前半が終わった時点で激怒(どのぐらい激怒していたかは、kametaroさんが詳しく^^;) ⇒ 後半は持ち直した」というレポを上げて以来、ずっと考えていたことがあります。

確かに後半は、前半よりも良かったけど、でもやっぱり、前半の不甲斐なさの方が先に立ってしまう。
オペラは共同制作、共演者や指揮者、オケ、そして裏方の人々を合わせての共同作業ですから、決して彼だけの責任ではないことはわかっている。

それでも、上演が始まって以来、私の中でずっと、何かが足りない、こんなはずでは…という気持ちが鬱積していました。

私は初日に大泣きをしてます。
なぜあんなに泣いたのか、自分でもよくわからないのですが、一つだけ確信が持てていたことは

「あの日、決して彼の歌に感動して泣いたのではない」

ということでした。

私にとって、彼=アレクサンダー・ヴィノグラードフのフィガロは、6年前に初めてこの人を、ベルリン国立歌劇場での「魔笛」のザラストロで聴いた時から

「この人のフィガロは、きっといいはず!」

と、ずっと長いこと思っていた、宿願の役でもあります。

同等の「宿願の役」という点では、昨年ベルリンで聴いてきた「バビ・ヤール」。
もちろん、曲の本質も表現すべきものも全く違います。

あの時の彼は歌に対して、ばしっと確信を持っていて、それがびしばしこっちにも伝わってきて、(大げさな言い方をすれば)魂を揺さぶられながら一体感を感じることができました。これは「彼の歌」だと、強く感じましたし、それが大いなる感動を齎したのです。

しかし今回。
リハーサルの日程が非常にタイトだったらしいのですが、その弱点はオケと指揮にも表れていて、普通、回をこなしていくにつれて精度が上がるだろうと期待していたのに、2回目 ⇒ 3回目と数をこなすにつれ、どんどん悪くなる…というか、迷走気味にすら感じる…これって一体、どういうこと?!

彼もまた、演出に対する役作りを練り上げる前に、公演が始まっちゃった…的な、毎回少しずつ歌い方を変えてみたり、アプローチもその都度少しずつ違いがあったりで、なんとなく迷いがあるみたいに感じる。

確かに今回の彼は(彼の声と新国の音響が相性がいいのもあるんでしょうけど)よく声は出ていて、その点での物足りなさは、全く感じない。逆に響かせすぎなんじゃないかと思うくらいでしたから。

本来彼は、そういう面よりも、重唱部で合わせたりするのが非常に巧い人で、どちらかというとアリアよりも何気ないレチタティーヴォなどに、はっとさせられることが多いんですけど、その辺の細かい歌い回しが、どうもこなれてないような気がしていて。

声がだいぶ重くなってきているので、その辺の軽やかさを表現するのが、もしかしたら辛くなってきているのかしら…とも、考えました。
今回の指揮は、割と軽めの演奏スタイルですし、そのスタイルと彼の歌い方が、どうもかみ合っていない、探りながら、おっかなびっくりで歌っている…

だから、心ここにあらず、というか、炭酸の抜けたソーダ水のような、ぬるい歌になっているような気がする…もちろん、疲れもあるんでしょうけど。

私にとってフィガロは、E.クライバー盤のチェーザレ・シエピの、インテリジェンスとユーモアが同居しているにも関わらず、荘重なフィガロ(役に対して、立派過ぎ?と思わなくもないんですけど)が完璧なデフォルト。他のCDも随分聞いてますし、映像もたくさん見てますけど、正直なところ

「シエピを凌ぐフィガロは、いないしね」

と、何を見聞きしても、最後にはそう思ってしまうのですが、それとこれは別。
それは充分わかっているし、彼に「シエピみたいに歌ってよ^^;」などと言う気はさらさらないのです。

でも「バビ・ヤール」の時と、同じ類の揺さぶられ方を感じたい…
「これが僕の、アレクサンダー・ヴィノグラードフの《フィガロ》なんだ」

という、確信が欲しい。

そんな風に思う私に問題があるのか?
私の過剰期待なのか?

幸いにも、ご一緒して下さった方々、また総じて巷のブログ等でも、評判が決して悪いわけではない(もちろん全部が全部ではないけど)のが、私にとっては逆に気がかりで、そんなことが色々鬱積していて。

一応は後半、良くなった…ということで、表向き私の機嫌は直っていたので、楽屋口では超ハイテンション。あの日は混み合ってましたし、疲れていたとも思うのに、わがままな態度で(それなのに優しいし)
私ってなんてタカビーで嫌な女なんだ、ファンとして最低の態度だ…とも思いました。

自己嫌悪も甚だしく、私はこの夜、殆ど食事も出来ず、睡眠も充分に取れないような状態で、日曜日(3回目の公演の翌日)に職場で

「ヴァラリンさん、幸せなはずなのに、どうしちゃったの?!」

と、周囲から心配されるほど、げっそりしてました。
また、3回目の感想を読んだ方々からも、心配のメールを頂いたり(ありがとうございました~~)
もう、小娘のようなジェットコースター並みの気持ちの振幅なんて、この年になってから味わうなんて、しんどすぎる…もうたくさん、とまで思い始めてしまいました。

結局その晩、泣きながらお友達に電話をして、話を聞いてもらってから、上向きになったのですけど、ネ。

(続きは本編レポにて)

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