191213-15 ドン・カルロ@ギリシャ国立オペラ

5幕版。演出はROHやMETでおなじみハイトナー版。
5幕版を実演で見たのは初めてですが、もともと5幕版の1幕に当たる部分にさほど思い入れがないせいもあって、長くなるだけでこれが入る故に休憩も2回になり、トータルで1時間近く長くなるからやっぱりいらないや・・というのが率直な印象。

あまり細かいことを言いたくはないのですが、色んな国の地方の劇場にも足を運んだ経験からしても、この劇場の客層はこれまでで最悪だと思いました。そもそも開演が15分くらい遅れた上に、始まって30分以上経ってから平気で遅れて入ってくるお客さんもいたり
(通路寄りの席に座っていたので、その度に立ち上がらなければならず・・・)
上演中も平気でお喋りしたり。客席周辺の環境に集中力を左右されやすいので、こういうことが重なると気が削げました。

13日の公演はエボリのアリアが終わったところで原因不明の中断があったり(おそらく電源トラブル)
初めての場所で疲れもあったり、そういうことを払拭させるほどがつんとくる演奏なら良かったんですが、残念ながらそういうわけには行かず。

指揮はパンチがなく漫然としているし、テバルドとか天の声クラスの端役はとてもプロとは思えないようなレベル、オーケストラもあり得ないような音色を出すシーンもあったり。

そういうストレスを更に増長させたのが、男声陣と女声陣の声量のバランスの悪さ。男声陣は音量的には不満がなかったんですが、
カルロはもう少しアンニュイな感じとか、ニュアンスを込めて欲しかったし、
13日のロドリーゴは2017年にハンブルクでマクベスを歌っていた西郷どんことピラタニアス(ヴィノグラドフとも仲良し)でしたが、演技があまりにも木偶の坊でがっかり・・・
それと彼の美しく柔らかいバリトンヴォイスは、この役には合わないな・・と思いました。この役は小さめでも、硬質でもっとパンチのある声の方がいいんだなと。

15日は年配の方でしたが、声量的には若干劣るし、見た目も若王と老ロドリーゴで「もう少しメイクでカバーできなかったのかな・・」とも思いましたが、全体のバランスはこちらに軍配をあげます。

それでも男声陣はまだ「聞こえてくる」のでいいんですが、女声陣は悲しい哉、飛んできてほしいところで肩透かしをくらう場面が多く、残念でした。

エリザベッタはバルバラ・フリットーリ。いっとき休養していたそうで、休養明けの最初の公演だったそうですが、かつての花形ソプラノをこういう形で聴くことになったのは残念としか言いようがありませんでした。それでも長年歌いこんでいる役ゆえ、遠目で見てもちゃんと娘っぽく見えるところや、所作は巧く、品があるのは流石。

カルロがフランドルへの派遣を王様に取りなして欲しい・・とお願いに来たのち、自分の感情を爆発させ、エリザベッタが「父を殺してその返り血を浴びたその手で自分を迎えに来い(←意訳)」と応酬する場面は、とりわけこの作品の中でも好きなシーンですが、舞台上の二人は絶妙な距離を保ちつつ、舞台側面の壁に映る二人の影は触れそうで触れないくらいの距離から、だんだん近づくけどやっぱり近づけない・・という演出は秀逸だと思いました。

エボリは近年この役で評価の高いエカテリーナ・グヴァノヴァ。昔に比べると、随分舞台上では垢抜けて綺麗に見えるようになったな・・と思いましたが
迫力不足。男声が100聞こえてくるところで7割ぐらいしか聞こえないと、ストレスたまります。
これまで4、5回この作品を実演で見ましたが、この役はどうも実演ではなかなか満足いく人がいないのが残念。

新国でフィリッポ、ベルリンで大審問官を聞いたことがあるラフェル・シヴェクの大審問官は、二人の声の棲み分けがバッチリ、緊迫感も充分で、この組み合わせは「逆はないわね」と思わせる説得力がありました。
それだけにオケと指揮にもっと煽って欲しかったんですけど。

*****************

アレクサンダー・ヴィノグラードフのフィリッポは後半「一人寂しく眠ろう」でのナイーブで繊細な表現→大審問官との応酬の後の
Dunque il trono piegar dovrà Sempre all’altare!

(こうして王座は屈するのか 常に祭壇の前に!)の高音から低音への音の動きは(私の耳には)完璧→
その後のエリザベッタとの応酬、エボリとロドリーゴが入ってきて・・・の四重唱は、次々に充実した演唱を聴かせて(見せて)くれました。

「一人寂しく〜」では机に肘をついてこっくりこっくりしつつ「・・はっ!」という感じで虚ろにしどけな〜〜く。
アリアが終わって、大審問官が来る時には胸元チラチラ見えている寝巻きの襟元をさりげなく正して(笑)髪の毛もちょいちょいと整えたり(笑)(笑)(笑)
(だらしない格好では会えぬ・・と思ったわけねw ま、どっちにしてもこのあとこっぴどく叱られるんだけどw)

エリザベッタを罵倒した後に彼女が気を失って倒れた直後の
Soccorso alla Regina! (王妃を助けてやれ!)
の表現・・13日の公演はこれを呆然とつぶやくように歌ったのには驚きました。そういう表現があったのか!と。
(15日はよくある切羽詰まったような表現。緊迫感はこっちの方が勝るけど、意外性では13日の表現にやられた)

この後倒れたエリザベッタを起こして、駆け寄ってきたエボリに「近寄るな!」といわんばかりに、すっと手を伸ばして彼女を制止し、
エリザベッタをぎゅーっと抱きしめ、愛おしそうに髪を撫でたりしながら四重唱を歌うんですよ。
えっえっそれは反則、ずるいわそんな風に歌ったら・・

(そのシーンの舞台写真がなぜないの!!!んっとにもう!)

こんな風にやっちゃったら、可哀想なのはエボリだよな〜〜なんのために彼と関係結んじゃったの。。。と、ちょっと不憫にもなり。
エリザベッタだって、王様にも充分愛されているんだから、
カルロはカルロ、王様は王様と「別名で保存」して、それぞれ愛しちゃえばいいのよ・・なあんて不謹慎なことを考えながら観てました。
そういう意味でも、現時点で彼のフィリッポはまだまだ枯れてない、王の苦悩よりも現役の男としての苦しみの方にフォーカスされているな・・と思いました。

話が前後しますが、前半最終部、この作品のハイライトとも言える異端審問の場面では
王様に懇願する民衆、エリザベッタ、カルロの声、否定する王様・・の応酬が繰り返されますが、
普段私がこの作品を聴く時には、民衆側に肩入れしているんですが、彼が王様になると自然とそっちに気持ちが動くわけです。

彼が初めてフィリッポを歌った時の中継放送を聴きながら、
私は「ああ、初めて私はこの場面で王様の気持ちに寄り添いながら聴いているんだな・・」と感じたことを、今度は劇場で実際に体感している・・
そう意識した途端、何度も目頭を熱くしていました。

初めてこの役を歌ったのが2015年ブエノスアイレス、その後2017年バレンシア、2018年LAに続いて4回目のフィリッポでしたが、
最初のコロン劇場の時の2回の放送録音が今でも私の中の彼のフィリッポの基準になっていますけど、基本的な解釈はそこから変わらず、歌の表現は少しずつ進化していると思います。

しょっちゅう歌っているエスカミーリョやメフィストだともう少し艶っぽく弾けてもいいかも…って思うけど、フィリッポだとまだその艶が眩しくて。もう少し抑えてもいいかもってくらい、熱唱してました。

それでも、やはり前半の威圧的な表現が勝るシーンでは、もっとハッタリを効かせて威張った雰囲気、虚勢を張った感じとかをアピールしてもいいんじゃないかな・・と思うところも。
政治家としてよりも一人の男としての葛藤の方が全面に出てるフィリッポなので、逆に政治的な場面ではまだちょっと物足りなさを感じたのも事実。
その辺がもどかしく、また共演者が変わるともっと化学変化も起こるかもしれないな・・とか、いろいろ思うところがあったのでなかなか筆(指)が進まず。。。

バス歌手にとっての憧れの役は、ファンにとっても聴くのは一つの夢であり、それが実際に叶ったことは素直に嬉しいです。
もう少し完成度の高い演奏で、聴衆のマナーも良く(笑)
自分にフィットした演奏だったらもっと感動的だったのかな・・とも思いますが、
これからもっと歌いこんで、年を重ねてどう変わっていくのか。

それを自分で確かめたいから、彼のフィリッポは今後も聴き続けますし、また近い将来歌って欲しいです。できれば日本でね(笑)

(いや・・2年連続で来日してくれるのは嬉しいんですけどね・・^^;9月のパーヴォさんとのエスカミーリョ、皆さん宜しくね❤️)

追記:公演中にインタビューを受けていたようです。なかなか面白いのでよかったら観てやってくださいw

Conductor:Philippe Auguin
Director:Sir Nicholas Hytner
Revival director:Daniel Dooner
Sets, costumes:Bob Crowley
Movement:Scarlett Mackmin
Lighting:Mark Henderson
Lighting supervisor:Simon Bennison (ROH)
Chorus master:Agathangelos Georgakatos
Swordsmen Movement:Terry King

Filippo II:Alexander Vinogradov
Don Carlo:Marcelo Puente
Rodrigo:Tassis Christoyannis (8, 15, 21, 28/12)
Dimitri Platanias (13, 19/12 & 2, 5/1)
The Grand Inquisitor:Rafal Siwek
A monk:Petros Magoulas (8, 13, 15/12, 2 & 5/1)
Dimitris Kassioumis (19, 21, 28/12)
Elisabeth of Valois:Barbara Frittoli (8, 13, 15, 19, 21/12 & 5/1)
Cellia Costea (28/12 & 2/1)
Princess Eboli:Ekaterina Gubanova (8, 13, 15, 19, 21/12)
Elena Zhidkova (28/12 & 2, 5/1)
Tebaldo:Miranda Makrynioti
Countess of Aremberg:Lyudmila Bondarenko
The Count of Lerma / Herald:Yannis Kavouras
Voice from the Sky:Niki Chaziraki
6 representatives of Flanders
Nicolas Karagiaouris, Maxim Klonovskiy, Tassos Lazarou, Nikos Masourakis, Andreas Metaxas-Mariatos, Marinos Tarnanas
6 monks
Vassilis Asimakopoulos, Giorgos Mattheakakis, Kostas Panagopoulos, Georgios Papadimitriou, Spyros Sokos, Dionisos Tsantini
With the GNO Orchestra, Chorus and Soloists

Translate »
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。